格差という虚構

『格差という虚構』小坂井敏晶(著)

書評
執筆責任者:蜆一朗
私が今回紹介するのは、小坂井敏晶氏の『格差という虚構』である。自由競争を謳う現代において、社会にはびこる格差を主張し批判する本は数多い。タイトルを一瞥しただけだと、その例に漏れず、格差そのものが虚構であり存在していないという意味に捉えられかねない。しかし本書は格差の存在を否定するものでもない。そして格差を少しでも減らすための方針を探るものでもない。むしろその逆で、時代が変わろうが人間がいかに努力しようが関係なく、格差が絶対になくなることはないという立場のもとで議論が進む。格差は社会の機能不全により起こるものであり、格差の是正を図り平等を目指す活動は崇高なものであると一般には信じられている。しかし著者は、それは格差の正体をわかっていないがゆえの誤った認識であるという。格差は集団生活において必然的に表れる構造である。本書は、近代の枠組みを飛び越え、平等・主体・嫉妬などの様々なテーマにあたりながら格差や能力の根源について考察する。そのため常識を逆なでするような結論もよく表れるが、決して奇を衒ったものではなく、行動遺伝学・政治哲学等の知見に沿いながらその矛盾点や限界が極めて論理的に指摘されている。そうして、能力に責任を負わせ、格差を正当化する理由根拠がどこにもないことが示される。近代という時代は、神に代わって人間が秩序を決定するという大前提を持つ。しかし、それどころか、世界は人間の意識を大きく超え手に負えない範囲で相当複雑に絡み合って形成されており、これからもそうであり続ける。貧しい境遇に「偶然」行きつきうる可能性がたびたび批判の的となるが、著者は「偶然」こそが偽りの希望から脱しより良い世界を生むための重要な役割を果たすという。本書は能力主義の先を見通す新たな視点が提示された1冊である。ジェイラボに関わる方にはぜひ読んでもらい、一緒に考えていただきたい。
(786文字)

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基礎教養部

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