炎上CMでよみとくジェンダー論

『炎上CMでよみとくジェンダー論』瀬地山角(著)

書評
執筆責任者:Takuma Kogawa
自分が小さなころと比較すると「性別」を表す言葉が増えている。生物学的な性であるセックス以外にも、社会的な性であるジェンダー、セクシャルマイノリティを包括する言葉として肯定的に用いられるようになったクィア、近頃頻繁に耳にするようになったLGBTなどがあるが、実のところセックス以外の用語の解釈はまだ定まっていないと思われる。本書はジェンダーの観点で「炎上」したCMを取り上げ、なぜ「問題」になったのか、どうすれば批判の少ないCMを作ることができるのかを論じたものである。最も歴史のある「炎上」は、1975年のインスタントラーメンのCMの「私作る人、僕食べる人」であろう。このCMについては「国際婦人年をきっかけとして行動を起こす女たちの会」が「料理は女性の仕事だと役割を固定する」と猛抗議し、放送は1か月程度で終了した。メーカーは「消費者などからの反応は、あのままでいい、という声が圧倒的に多かったが、少数の声でも、謙虚に耳を傾けていくのは当然」と発表している。ジェンダーの観点からは、食品や住宅系のCMは上記のような性別の役割の固定を懸念させるものが多いと評価される。炎上を避ける簡単な方法は、セックスやジェンダーの区別がない言葉や表現を選択することである。たとえば人物の呼称にくっつける「さん」や「先生」はそのような区別がないため理想的で、英語でも「-san」「-sensei」で使われる。一方で筆者を含むジェンダー論者は「くん」「僕ら」「彼ら」は男性的な色が出るため望ましくないと考える。英語にはもともと中性的な言葉が存在しているため、三人称複数のtheyに三人称単数の意味が付与されるなど、単語を自然に置き換えることができる。日本語は「彼ら」に相当する中性的な言葉がおそらくないため「〇〇さんたち」などで代用するしかないだろう。企業も個人もいつでも炎上する時代になってしまったのだ。
(794文字)

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基礎教養部

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