データ分析の力 因果関係に迫る思考法

『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』伊藤 公一朗 (著)

書評
執筆責任者:ゆーろっぷ
昨今のデータ分析・ビッグデータ活用の隆盛に伴って、データやその分析結果を読み解くための基礎知識、データリテラシーの必要性が叫ばれるようになって久しい。情報が溢れ、メディア上の「恣意的なデータ分析結果」に翻弄される者が後を絶たないこともそれに拍車をかけている。しかし一方で、肝心なその知識の中身について正確な理解と実践がなされているとは言い難い。例えば、単にデータ数が増えても本質的に解決不可能な問題があるにも関わらず、ビッグデータは万能であるかのように語られることがしばしばある。また、相関関係は必ずしも因果関係を意味しないことは言葉の上では認知されつつあるものの、いざ実際のデータに直面すると、短絡的に因果関係を決めつけてしまうという光景もよく見られる。このようなデータの表面的な印象や無理解から妥当でない結論を導くことを避けるためには、データによる因果推論の考え方を学んでおくことは有益であろう。本書はその手法を探究する学問である計量経済学の、一般に政策評価と呼ばれる分野について初学者向けに概説した入門書である。特に本書では、観察データを用いて因果関係を分析する従来の手法だけでなく、近年盛んになっているランダム化比較試験の活用にも主眼を置いている。また、本論部分では数式による説明は省かれているものの、代わりに実証例や視覚的なグラフなどを用いることで、計量経済学の考え方のエッセンスを理解できるように工夫されている。加えて、そういったデータ分析の手法だけでなく、その制約についての議論にも一章分を割いている。総じて本書は、計量経済学の基礎となる考え方の本質を明快に論じつつ、豊富な実証・応用例の紹介、さらには分析手法やデータ分析そのものの限界に関する論点などをバランス良く盛り込んだ良書であり、計量経済学という学問に関心のある人はもちろん、データ分析に馴染みのない読者にも是非一読を勧めたい。
(800文字)

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