キミは何のために勉強するのか

『キミは何のために勉強するのか』富田一彦(著)

書評
執筆責任者:蜆一朗
本書は2冊からなる『試験勉強という名の知的冒険』シリーズの後編である。著者である富田一彦氏は、東大の文学部を卒業した後に数年間高校に勤め、その後30年以上の長きにわたって代々木ゼミナールにて英語を担当してきた予備校講師である。一般に予備校というと、将来不要な受験のための知識を詰め込み、入試問題を鮮やかに解くための秘伝のテクニックを伝え、偏差値による序列化で生徒を競争に駆り立てるというイメージがあるかもしれない。それは言わば、能力の向上やそれに伴う苦労を冷笑し、なるべく楽に最大の結果を得ようとすること、また、矛盾するようだがそれと同時に、指導者や制度に批判的な目を向けずただがむしゃらな訓練を積むことを求めるものだ。冷静に考えればそれは指導でも教育でも何でもない。本書の狙いはそういったイメージと真逆に、華々しい成功体験を回顧するものでも甘い言葉で “カモ” を釣るものでもなく、学習者の知性を高めることそれだけに留意した指導の理念を整理し、裏帯の言葉を借りれば「する価値のある苦労とそうでない苦労を見分ける目」を養うためのものである。受験制度および教育を「する価値のある苦労」にしていくためには、メディアの扇動や自身の失敗体験だけに依って制度を「する価値のない苦労」と否定したり抜け道を探したりするのではいけない。教育に携わるすべての人々が知恵を出し合い、建設的により良い環境を作っていく必要がある。著者のそうした願いから、本書では受験生だけではなく、指導者や出題者、親御、そして教育に当事者として関わるわけではない一般の人々にも言葉が向けられている。教育は社会と不可分であるために、決して無駄にならぬよう試験や受験制度を設計するとともに、その正しい道筋とはどうあるべきかを多面的に見つめることは、社会をよりよくするための第一歩である。本書を通じて多くの人々とこうしたことを考えたいと切に願う。
(800文字)

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