新しい左翼入門 相克の運動史は超えられるか

『新しい左翼入門 相克の運動史は超えられるか』松尾匡(著)

書評
執筆責任者:Tsubo
程度の大小はさておき,「この社会はどこかおかしい」と思わない人はいないだろう.そして,そのような思いを抱く者のうちそう少なくはない人が集まり,言論活動やデモ等の行動といった形で社会を少しでも変えるべく活動してきた.本書は,日本においてそういった活動を行ってきた人達の中で,特にいわゆる「左翼」と呼ばれる集団の性質,歴史を記述し考察した本である.勿論,今日の現状を知る我々からはその性質や歴史は,ともすれば唾棄や軽蔑の対象として写りうる.しかし,そこから学ぶものは何もないという結論を出すのは早計に過ぎる.筆者は日本における「左翼」の失敗を二つの立場,つまり,「抽象的な理論や理想を掲げ,農民や労働者層といった大衆をいわば“上”から啓蒙することで社会変革を成そうとする」立場と,それとは逆に「一般大衆,例えるなら“下”の人達の生の欲求や願望を実現することで社会変革を成そうとする」立場が相克し合うことにより起こったと指摘している.これら二つの立場の対立は「左翼」だけに限らず環境問題といった他の運動,あるいは企業や大学のサークルといった人間の集団全般に共通する問題だといっても過言ではない.貴方も,「頭ごなしに自説の優越性を説きそれに賛同できない人達を排除する」人や「自分達の利益を優先するあまり他集団を圧迫し,個の自主性が損なわれている小集団」を目にしたことはあるだろうし,あるいは既にそうなっているかもしれない.この対立は根深いが故に,解消は困難であり,著者も「欠点の総合は簡単だが長所の総合は難しい」と語る.結局「目の前の人の欲求を丁寧に汲み取り,それを地道に一般化する」「多数の集団に属し個人としての核を確立する」という「入門」的なものしかその解消に有効な手段は存在しないのである.この事実はあまりにも当たり前だが,その重みは我々に深い反省を促すだろう.
(780文字)

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基礎教養部

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