はじめての構造主義

『はじめての構造主義』橋爪大三郎(著)

書評
執筆責任者:イヤープラグさざなみ
構造主義とは、人間や社会のあり方を、色眼鏡を抜きにして直視するための比較方法論である。本書では構造主義の大家、レヴィ・ストロースに焦点を当て、彼が自身の思想を醸成するに至った経緯が平易に解説されている。構造主義の源泉を辿ると、遠近法と数学に行き着く。平行線公理に関する考察からリーマン幾何学が登場するまで、ユークリッド幾何学は不変の真理を表すものと考えられていた。しかし、公理が真理ではなく「規約」にほかならないことが分かると、当時の数学者たちは次々と数学の新たな分野を開拓していった。西欧はそれまで、それが啓示によるものか理性によるものかの違いこそあれ、真理を追い求めてきたが、何が「正しい」かは前提の置き方によって異なり、すなわち考え方次第である。真理を手にしたつもりでいて実は制度の上に安住していただけだったのではないかという反省は、数学にとどまらず、思想全般に波及していく。上で述べた「規約」や「制度」は現代数学で言うところの「構造」の概念に対応する。数学における「構造」を理解するために、本書では絵画の遠近法が導入される。遠近法の技術的な面に注意すると、例えばスクリーンに垂直な平行線が画面上の一点で交わるという特徴がある。この遠近法の特徴を基にし、全ての平行線が無限遠点で交わるという前提から、射影幾何学が誕生する。視点の移動による図形の変形を射影変換と言い、射影変換に関して不変な図形的性質をその図形の「構造」と呼ぶ。構造はその図形の抽象的な性質であって、目には見えない。遠近法では主体や客観が強く意識されていたのに対して、射影幾何学では主体を無視することによって構造が浮かび上がってくる。レヴィ・ストロースは、数学の「構造」を神話学に持ち込むことによって、主体にとって「不可視」な集合的で無自覚な思考の存在を示した。(766文字)

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