世界はなぜ地獄になるのか

『世界はなぜ地獄になるのか』橘玲 (著)

書評
執筆責任者:chiffon cake
本書のテーマは、社会のリベラル化によって生じたキャンセルカルチャーである。リベラルとは”自由に生きたい”という価値観だと冒頭で定義される。これが普及した今日の社会が、社会的に重要なポストに就く人物の言動が倫理・道徳的に問題があるとして辞職を求める社会運動、すなわち、キャンセルカルチャーという帰結に到達したという。本文では、近年起こった事例を経由して読者を誘導している。最初の事件は日本で起こったキャンセルカルチャーの例として提示される(1章)。これにより”正しさ”の基準はどこにあるのかと読者を誘導する。その答えがポリティカル・コレクトネスとなる(2章)。正しさの基準とは人々の主張がせめぎ合い、なんとなく決まっていくというもの。誰から見ても悪と即決されるような差別問題がなくなると、リベラル社会の注意はより細かいレベルに移り、表現の自由と衝突するという(3章)。リベラル社会では、さまざまな良識を持った主体が多様な正義を掲げて衝突する。水掛け論となっていつまでも解決を見ない。次の4章が本の土台となっているのだが、人間は機構としてステイタスを手に入れるために奮闘せずにはいられない(4章)。本来ステイタスは、社会的・経済的地位のことであり、付け加えても権威くらいだが、美徳あるいは正しさというべきか、どちらがより道徳的かという競争も原理的に実在しているらしい。これが社会正義、つまり我こそ正しいの争いを白熱させる。個人ではなく一定の集団レベルでの対立は帰属する集団へのアイデンティティの融合から説明できるようだ。つまり、著者は格差・差別にまつわる人々の応酬を合理的な競争としている。5章ではキャンセルカルチャーがどのようにして派生し、現在における問題例を紹介している。最後の6章にはキャンセルカルチャーがひろまった世の中では人々のコミュニケーションが減ったディストピアになると予想している。
(797文字)

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