人工知能と人間

『人工知能と人間』長尾真(著)

書評
執筆責任者:けろたん
後に国会図書館館長を務める長尾真による1992年初版の本書では、前半部で人類がコンピュータを使って解決しようとしてきた問題が説明され、後半で人間知性に対する考察がおこなわれる。はじめに、あらかじめ定められた動作と、その動作を記録したプログラムによって、コンピュータが解ける問題と解けない問題の区別がなされる。問題が内に含む無限の種類が、解けるか否かを区別する本質的な要素である。有限であっても現実的な時間で処理できない問題もある。計算処理、定理の証明、ボードゲームの攻略など、形式化された問題を有限の存在であるコンピュータで解くためのアプローチが紹介される。文字や画像、三次元画像からパターンを読み取り、対象物を決定するのにもコンピュータは用いられる。人は対象の部分の認識と、全体の認識の往復を自然に行う。対象のすがたかたちが単純であれば、対象は即座に認識される。そうでない場合、人は整合的な部分同士の関係を総合しながら認識を組み立て、結果として矛盾のない認識を行う。このような処理がコンピュータ上でどのように再現されているのか、そもそも人間の処理プロセスと類似の処理を論理回路上に可能なのだろうか。膨大なデータを蓄積できるようになるにつれ、自然言語も扱えるようになった。コンピュータは、言葉が結びつく具体的な現象を経験できない。その上、自然言語では言葉と言葉が持つ関係は循環的である。人間の言語は言葉と言葉の相互変換ルールにすぎないのか。これらの人工知能史上の問題を踏まえた上で、人間知性への考察がはじまる。人間知性のモデル化を試みる人工知能研究と従来の哲学の溝は、プログラム上の処理として知性をあらしめようとするか、紙と鉛筆で思弁するかの違いである。知性とは客観的に現前させることができるものなのか。すくなくとも、知性の模型は人ではないものに宿っている。
(779文字)

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