物理の道しるべ

『物理の道しるべ』数理科学編集部(編集)

書評
執筆責任者:Naokimen
本書は月刊誌「数理科学」の連載『物理の道しるべ』に掲載された合計20名の物理学者による記事をまとめたものである。第一線で活躍する物理学者が幼少期の頃から現在に至るまでの学び、その中での人との出会い、外国滞在、社会情勢、興味や研究テーマの変遷といった、研究者を志すまで・志した後の道筋が生々しく書かれている。例えば、阿部龍蔵氏は、中学生の頃、パワートランスを改造して得た1次コイルを使ってどれくらいの磁場が生じるか実験したくなり、コイルを100Vの電源につないだ結果、ショートしてヒューズが飛んでしまったそうである。そのような自分で体験したことは容易に忘れることはなく、その経験は電磁気学の本を書くときに役立っており、まさに百聞は一見に如かずの通りであると述べている。また、小学生の頃、避暑に出かけた時に見た天の川をきっかけに『子供の天文学』という本を買ってもらいそれを読んだことが科学者の原点だったのかもしれないと振り返っている。しかし現在は文明の発達に伴い自然は失われていき天の川は見えない。それに対して筆者は、本来なら見えるはずのものが見えないという現状に疑問を呈している。また、美宅成樹氏は蛇の心臓の位置を例として、科学者でも錯覚・偏見に陥るのを避けられないということから話を始める。AかBかという問題を投げられたときに科学者を含む多くの人は答えとしてAかBかだけを考えてしまいAもBも正しいという答えとAもBも正しくないという答えを忘れがちになるという。そして筆者は誰でも錯覚・偏見から免れないことを意識して勉学・研究を進めると必ず独創性がつくと述べる。ここでは2名の例しか紹介していないが他にも計20名の物理学者の様々な経験が書かれている。物理学者の道を志そうとしている人はもちろん、他の分野の研究者を目指している人にもためになるような経験や考え方等が多く述べられておりお勧めできる。
(797文字)

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