作曲の科学

『作曲の科学』フランソワ・デュボワ (著), 木村彩 (翻訳), 井上喜惟 (読み手)

書評
執筆責任者:チクシュルーブ隕石
音楽は非常に制約の多い芸術である。音楽の三大要素と呼ばれる「リズム」、「メロディ」、「ハーモニー」を基本として、様々な要素が心地よい音楽を作り上げる。全く制約を無視した音符の配置、練られていないハーモニーなどは聞くに耐えない。現に、音楽理論という言葉が存在して音楽を志す者の基礎となっていることは音楽における制約の重要性を示している。こと、自らが作曲を行う際には、それらの制約に向き合う必要がある。マリンバのプロ奏者・作曲家である著者、フランソン・デュボワは作曲を横軸の「足し算」と縦軸の「かけ算」であると述べる。まず、音符にはそれぞれ決まった長さと音程があり、それらが次々と繋がっていくことで音楽が進んでいく。また、拍子を決めることによって弱拍と強拍の位置が決まり、その音楽の「ノリ感」が確定するのである。これが楽譜における横軸の「たし算」である。しかし、これだけでは同時に一つの音しか鳴っておらず不十分である。ここで登場するのが縦軸である和声法つまり、「ハーモニー」だ。バッハがバロック期に体系化させた「対位法」を経て、音の重なりの重要性が理解されてきた。高さの異なる複数の音が重なることによってハーモニーが生まれ、豊かな音の響き・広がりができたのだ。これが縦軸の「かけ算」である。かけ算という表現に違わず、ハーモニーが生まれると音楽は飛躍的に立体感を増す。本書の後半には、音楽の世界を決める調性・調号についても述べられており、作曲の前提となる初歩的要素について概ね触れらている。音楽を聴く際に、横軸と縦軸といった要素に注意して聞いてみると、書き馴染んだ曲でも新たな発見ができるかもしれない。また、本書を機に作曲に取り組む者、音楽について学ぶ者がいれば幸いである。音楽を専門にしているかを問わず本書を一読することを薦める。
(763文字)

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