古代中国の24時間

『古代中国の24時間』柿沼陽平(著)

書評
執筆責任者:Yuta
二千年前の古代中国の人々はどんな日常生活を送っていたのかを、文献史料や出土資料など使えるものはすべて使い、服装・食卓・住居から宴会・性愛・育児まで幅広く古代中国の二十四時間を再現する。現代の我々日本人とのギャップに驚きながらも、意外な共通点を知ることで、より楽しく歴史を学ぶことができるというコンセプトの本である。本の中では「読者が古代中国(とくに秦漢時代)にタイムスリップし、一日二十四時間を生き抜く」というRPGのような体裁を取りながら進んでいくので、学問的過ぎず、読みやすく書かれている。秦漢時代の人々の名前は姓・名・字(あざな)よりなる。しかし、原則的に他人を名で読んではならなかった。皇帝の実名に至っては、口にしてもその漢字を使って文章を書いてもアウトで、そのルールは避諱(ひき)と呼ばれる。字もタブーだった可能性もあり、用字にあたる場合、避けにくいとの理由で即位後に名と字を変える皇帝もいたようだ。こうした事情があるので、かつて前漢の劉邦は項羽を倒したのち、項羽の旧臣に項羽の字であった「籍」を発音させた。これは一種の踏み絵であった。このような、名前の呼び方のような言葉遣いの作法から本論は始まるが、まともな日常生活を送るには、まず言葉遣いに気を付けなければならないというのは今も昔も変わらないことであると、自分に単位をせがみにくる落第生の例えを用いながらユーモラスに筆者は述べており、感心した。また、「幸か不幸か中国古代史の史料は新書百冊分位で、精読はムリにしてもまともな研究者なら十年もかければ読み通せる量である。そこで筆者は実際に十年間実行して日常生活に関する記述に全て付箋を付けてみた」とあり、研究者としての姿勢に感銘を受けた。自分自身、特に三国志やらに詳しいわけでもなく、漠然としか古代中国に関して知らない人間だったが、そんな人でも楽しめる一冊である。
(787文字)

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基礎教養部

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