世界史の構造

『世界史の構造』柄谷行人(著)

書評
執筆責任者:Hiroto
今回私が紹介する書籍は、柄谷行人著『世界史の構造』である。世界史、というものの、具体的な歴史の知識が書いてあるだけの本ではない。それらはいわば世界史の“肉”にあたる部分であり、本書で述べられているのはもっと一般的な“骨格”の部分である。抽象的な構造を、具体的な情報の集積である史料から抜き出してまとめるには、それ相応の独自の視座が要求される。本書における著者独自の視座とは、「交換様式」という概念である。この聞きなれない概念を腑に落とすには、まず、かのマルクスが世界史を見渡すときに使った概念、「生産様式」について概要を知らねばならないだろう。ここでは詳細は割愛するが、ともかく、本書はマルクス、カント、ヘーゲルなどの提唱した様々な(政治)思想を文脈に含んでおり、彼らが大まかに何を主張していたのかだけでも把握しておくと、理解の一助になるだろう。その意味では、非常に安易な区分で申し訳ないが、本書は高校の教科で言うならば「世界史」ではなく「倫理・政経」に関連する本だと言える。そんな本書だが、前提知識に疎い私でも、ハッと常識を覆されるような記述が多く存在する。「定住こそが農耕・牧畜に先立っている」「呪術者が最初の科学者である」など、一見教科書的な教えから外れるような記述が数多くあり、それを正当化するための引用が膨大である。引用(と注)が膨大であることによってページ数は多いのだが、決して具体例や引用に終始せず、著者独自の視点が縦横無尽に張り巡らされている。前提知識の細部には疎い私は素直に著者の主張を受け入れながら読めたが、従来の政治思想の細部に詳しい諸氏はむしろ適宜常識を破壊しながら読むことになるため、一筋縄ではいかないかもしれない。しかし、この諸行無常を体現したような現代において、未来図を思い描くのに非常に示唆的な記述が数多くある本書は、時間をかけて苦労しながらでも読む価値があるだろう。
(800文字)

追加記事 -note-

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

ジェイラボ
基礎教養部

コメント

コメントする

目次