無理ゲー社会

『無理ゲー社会』橘玲(著)

書評
執筆責任者:Tsubo
「この社会は理不尽だ」−貴方は,余程失敗とは無縁の人生を歩んでいない限り今まで一回はこう思ったことがあるだろう.収入,容姿,社会的地位,友人・配偶者の有無や質…この社会には数多の「評価指標」が存在しているが,その全てが満足なものであると感じる人は極々稀であろう.人は,それら「評価指標」の浮沈を日々確認し,目標に達せられたと判断し喜ぶか,あるいは未達を嘆くかして今日に存在している.これは,そんな今日を生きる現代人全てに突きつけられた書である.曰く,「現代人は数多の評価指標を向上させる“ゲーム“に強制参加させられている」「このゲームは社会的,生物学的等の観点から熾烈を極めるもの以外に形を取らない」「しかしながらそれらの指標を向上させるにあたりかなり重要な能力である“知能“は遺伝や幼少期の環境など変更不可能な要因によって定まるのだ」−身も蓋もない指摘である.今日,知能等の各種能力は後天的な努力で改善可能だとする風潮が強いが,その「努力を行える」能力も幼少期までに定まる要因により左右されるというのだ.そして,この社会では評価指標の寡少により「排除」される人間が一定数発生する.このような人間が達する先は程度の差こそあれ「絶望」しかあるまい.本書は,このような,我々が触れていても今まであえて見過ごしていた事項を強制的な形で我々に再認識させる.またその後の状況として,個々人に依るとはいえ「この社会は理不尽だ」という嘆きや怒り等が混じる感情を発露すると容易に予想される.ただ,同時にこの社会のどこがどう「無理ゲー」なのか多少なりとも知れるのも事実である.知れたところで「社会の“無理ゲー“度合い」は何も変わらないから,これは「救いが無い“救い“」なのであるが,まぁ一瞬でも気休めにはなるだろう.社会の「理不尽さ」に直面するこの文章の読者へ,最も刹那的な気休めを求めるのであれば私は本書を勧める.
(799文字)

追加記事 -note-

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

ジェイラボ
基礎教養部

コメント

コメントする

目次