知的創造のヒント

『知的創造のヒント』外山滋比古(著)

書評
執筆責任者:ゆーろっぷ
外山滋比古氏といえば、言わずと知れたベストセラー『思考の整理学』の著者という認識を持っている方が多いはずだ。また、国語の教科書や入試で「よく出る」筆者として記憶している者もあるかもしれない。氏は2020年に96歳で逝去されたが、前述の世間的認識・評価に違わぬ通り、生涯に渡って創造的な仕事を続けた作家であった。その中で紹介するのが、氏の著書の一つ『知的創造のヒント』である。本書はタイトルにある知的創造をテーマに語った随筆であり、その内容は多岐にわたる。勉強の天敵と思われている忘却から始まり、発想の方法、アナロジー思考、雑談の効能、環境と他者、本との付き合い方、文章の書き方など、雑多とも言える主題の幅広さである。しかしそのそれぞれについて、40年以上前に初版が出たと思えないほど、現代にも普遍的に通ずる考え方が散りばめられている。実際、中にはつい数年前に出版された思想書と類似した内容が書かれていたりする。もちろん、そのようなアイデア自体は思想書に限らず他の多くの書籍でも語られていることではあるが、本書の最大の特徴は、比喩を多く用いるという本書のスタイルにある。通常、比喩は詩的なものとして散文では敬遠される傾向があるように思うが、本書(というより外山氏の著作)では、独特かつ秀逸な比喩がその文章を彩っている。例えば、諸々の利害関係(一言に「環境」とか「空気」と言っても良い)から自由になることを「出家的」と表現したり、虚の言葉(現実から分離した言葉、言葉遊びとしての言葉)で表現される非実存の世界を「無重力の世界」と呼んだりしている。このような比喩は、アカデミックな背景を持つ入門書や専門書には見られない独自のものであり、ある意味、本書はそのスタイル自体が知的創造の成果物であると言ってよい。総じて本書は、形式面・内容面の双方で、独創のための示唆を与えてくれる快著であると言えよう。 
(796文字)

追加記事 -note-

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

ジェイラボ
基礎教養部

コメント

コメントする

目次