生きのびるための流域思考

『生きのびるための流域思考』岸 由二 (著)

書評
執筆責任者:あんまん
流域、どこかで目にしたことがあるような、聞き馴染みがありそうな言葉だ。けれどもこの言葉について深く考えたことのある人は少ないのではなかろうか。流域とは、雨の水を河川・水系の流れに変換する大地の地形のことである。流域の構造を知ることで、水土砂災害に備える考え方や行動ができるようになるが、私たちがよく利用する地図にはほとんど反映されていない。そこで、著者の岸由二さんは水土砂災害が急増している温暖化豪雨時代を生きる私たちに、流域を知らないと命が危ないと警鐘を鳴らす。本書は3章で構成される。1章で流域についての説明、2章で流域思考の実践としての鶴見川流域の総合治水の紹介、3章で流域思考による持続可能な暮らしを模索する。2章では流域思考の実践として鶴見川流域の総合治水が述べられている。それを通じて、流域思考が、豪雨に対応する治水がわかりやすくなるだけでなく、生物多様性保全の見通し、防災・自然保護を超えた暮らしや産業と自然との調整の見通しも良くするということが実例とともに明瞭になってゆく。氾濫を引き起こす構造として、河川が直接的な原因のように見える。しかし、その河川に大量の雨水を集める大地の広がりは流域であり、雨水や降水による氾濫やさらにそれらを水土砂災害を引き起こす川の流れに変換するのは、流域である。つまり、氾濫を起こすのは川ではなく流域なのである。このように河川などの特定のスポットのみを見るのではなく、巨視的に災害発生地域全体、災害を引き起こしうるネットワーク全体を考えるというのが流域思考の本質である。この物事をマクロなネットワーク単位で見る流域思考の考え方は水土砂災害の対策だけでなく、さまざまなリスク回避に応用ができる。なぜならリスクというものは複合的に発生するものだからである。自然災害が多い今の時代、日本に住む我々にとって流域思考を身につけることは価値のあることだろう。
(796文字)

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基礎教養部

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