科学はなぜわかりにくいのか

『科学はなぜわかりにくいのか』吉田 伸夫 (著)

書評
執筆責任者:西住
科学とは誰もが認める「正しい知の体系」なのか。我々の素朴な感覚では、その通りである。しかし、少なくとも当の科学者自身は科学を「正しい知の体系である」とは考えてはいない。筆者は科学とは常に更新され修正されていく流動的な知の体系であると説く。流動的であるということは、素朴な感覚とは異なり、科学は絶対の真実などではない、ということである。我々は「科学的に証明されている」と言われればすぐに信じてしまう。しかし科学はそこまで単純ではないし、絶対の真実でもないのだ。こう言ってしまうと、逆に科学が全く信じられないと飛躍するパターンもあるのだが、何事も二元論で語ることはできない。科学の中でも教科書に載っているような「科学的知識」は確実性が極めて高く、安定しており(安定している=真実ではない)、周辺には最先端の可変的な領域が広がっている、というグラデーションが存在する。本書はこの「科学的知識」がいかにして形成されていくのかについて、恐竜の絶滅の議論を追っていくことで解説している。恐竜の絶滅に関しては、元々生態系の変化などが積み重なって起きたとされる「漸変説」が主流だったのだが、後に外部的要因による破局である「激変説」の妥当性が示され、定説となった。筆者は1980年にウォルター・アルヴァレズらが提出した論文を追うことで、激変説、具体的には「小惑星衝突説」がいかにデータ的に見て正しいのかを克明に記述し、科学の手法、信頼性、妥当性を示している。他にもさまざまな具体例や、科学が信頼できる理由や、逆に科学の限界なども語られているが、本の中核にあるのは、この小惑星衝突説に関する部分である。この部分を読めば、科学的議論がどのように行なわれているのか、いかにして科学者は自説の妥当性を証明していくのか、リアルタイムで体験をしているかのように知ることができる。
(774文字)

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