日本のデザイン

『日本のデザイン-美意識がつくる未来』原研哉(著)

書評
執筆責任者:Nam
『日本のデザイン – 美意識が作る未来』日本の著名なデザイナーであるこの本(岩波書店の発行する月刊誌『図書』において2009年からの2年間の連載をまとめたもの)の著者 原研哉は資源のない国日本において、日本人の持つ美意識を貴重な資源と定義する。原は本書第2章にてこの美意識の一つに「エンプティネス」をあげているが、これは本書内で造形・装飾の歴史をもとに定義される「シンプル」との線引きによって際立ったものとなる和室、京都慈照寺の東求堂同仁斎における簡潔さ、意図された空っぽに代表される意識のことである。「シンプル」とは異なる「合理性では到達できない別の美意識」であるとか「最小限のしつらいで豊かな想像力を喚起していく」という言葉で語られる「エンプティネス」の背景には豊かな文化の蓄積と戦乱によるそれらの消失による止揚があると著者は語る。この「エンプティネス」から始まる文化として茶の湯、生け花、庭などが挙げられるが、読み進めていくうちに、この章の前半で挙げられたデザインのスタイリング以外の側面、「生み出すだけの思想ではなく、ものを介して暮らしや環境の本質を考える生活の思想」とのつながりが見えてくる。ここで著者は球と球技の関係を引き合いに出し「球が丸くないと球技が上達していかないのと同様、デザインが人の本質に寄り添っていないと暮らしも文化も熟成していかない」と述べているのであるが、まさに茶の湯とは「エンプティネス」を備え持つ茶室によって熟成された文化なのではないかと気付かされる。自分自身、デザインに関する本を読むのはこれが初めてではない。むしろ気になるものがあればすぐに手に取る方だ。本書は具体的なデザインに出会うところから始まった自分とデザインとの関係を、もう少し抽象度の高い一つ次元が上の言葉を用いて捉え、整理する道具を与える、そしてまだ見ぬデザインへと向かわせてくれる燃料補給所だ。
(798文字)

追加記事 -note-

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

ジェイラボ
基礎教養部

コメント

コメントする

目次