科学者という仕事

『科学者という仕事』酒井邦嘉(著)

書評
執筆責任者:Hiroto
本書は言語脳科学者である著者が,科学者に関する各論や総論をまとめた結果を書籍化したものである.一口に科学者を語るといっても様々な切り口があるが,本書では研究への心構えから研究発表の際のお約束まで実に幅広い切り口で科学者の姿が描かれており,普段ノーベル賞のニュースなどを見聞きするだけでは知り得ない科学者の生々しい姿が感じられる.本書の目的そのものは,帯に「科学者がわかると,科学もわかる」と書かれているように,科学の啓蒙である.ではなぜそのために科学“者”にスポットを当てる必要があるのだろうか.著者はまえがきにて「科学は人間が創るものである」と述べている.言われてみれば当然のことだが,日常生活の中でそれを意識する機会は少ないように思う.私たちの身の回りは科学で溢れている.しかし我々が目にする科学はすでに洗練されたテクノロジーとして現れるため,それらが生み出されるまでに科学者によるどれほどの基礎研究が存在したのかを実感として感じられない.短期的に科学の恩恵を享受する立場からみれば,この科学者との壁は大して問題にならない.しかし,目の前でハイテク商品が魔法のように量産されていくのに慣れ,短期的に結果が見込まれる研究のみに投資を行ったらどうなるか.きっと歴史を変えるような大発見は望めないだろう.遠い未来に大きな利益を生むかもしれない基礎研究を切り捨てることは,決して人類にとって得策ではない.短期的な視点だけでは誕生し得なかったテクノロジーが数多く存在することは歴史を振り返ってみても自明である.著者は,科学研究者だけでなく市民も科学の進歩を支える一員であると語る.我々市民はそのために何ができるのか.一つの答えは,目の前にあるテクノロジーをただ享受するだけでなく,その基盤となる基礎研究および日夜それを行う科学者についてよく知ることである.本書はそのための一助となるであろう.
(793文字)

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