妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ

『妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ』橋迫瑞穂(著)

書評
執筆責任者:けろたん
スピリチュアリティ (スピリチュアル) と聞くと胡散臭い, 信用に足らないものと脊髄反射で思う。 「科学的」 ということばにある種の権威主義を感じる人でも非科学についてはこんなものだろう。 本書では, 伝統, 宗教, フェミニズムを軸に, 妊娠・出産をめぐる言説を構成する「子宮系」, 「胎内記憶」, 「自然なお産」の3概念が示され, それらを消費する女性像が浮き彫りになる。科学を考えるために, 科学でないものを考える。 この逆説は, 科学のみによって構成されない社会を理解すべきとき避けられないものとなる。正しさとは, 論理, 統計, 解釈技法を駆使し,仮説間の整合性を保ちつつ知識を増やしていくことであり, それこそが理性の唯一のはたらきだと思い込んでしまう我々にとって, 異文化の概念体系から導かれる正しさや, べき論がときに見せるこの異質の様相に拒否感を持ってしまう。彼らの立場に立ってみる。 科学が再現性を見出す対象は, 究極的には一度しか起こらない歴史の加工品である。 ミクロな視点の 「正しさ」 を求めるとき, これは明白になる。 99%という数字は百人, 千人の集まりにとっては意味がある数字かもしれないが, 1%がこの身に降り掛かったときにどう振る舞うべきか。 統計が教えてくれるとは限らないのである。妊娠・出産は人類の半分にとっては一度も体験・体感することがない。 まして女性でさえ一生のうちに数度しか経験しない時代になったことは, 本書で語られるような生殖機能の神聖化, 妊娠・出産の神秘化の潮流と無関係とは思わずにいられない。もちろん科学は有用だ。 だがその有用さの正統性を理解するためには訓練が必要だ。 本書のようなスピリチュアリティを消費する個人は, 誰もに開かれている科学というフィクションで攻撃されるべき対象ではないことは確かだ。 
(780文字)

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基礎教養部

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