瓶詰地獄

『瓶詰地獄』夢野久作(著)

書評
執筆責任者:ジパング
無人島に遭難した男女2人。何も起きないはずがなく・・・。今回私が紹介するのは夢野久作の「瓶詰地獄」である。禅僧、陸軍少尉、郵便局長、新聞記者など様々な肩書を持つ人物である。筆者の作品の特徴はとにかく「怪奇」であり、経験したこのとの無いような読後感を味わえる。この本は無人島に遭難した兄妹が島で生活をしていく中で、兄の妹に対する感情が変化していき、そして苦悩する様子を書いた作品である。この本は瓶詰めされた三通の手紙から構成されていて書簡体で書かれている。一通目は遺書ともとれる内容。二通目は島で起きた出来事。そして三通目に救助を呼ぶ手紙。書簡体という形式であるため、兄の目線で書かれている手紙には実際の描写全てが記されている訳ではない。また書かれている内容が真実かどうかも定かではないため、読者の補完や想像が肝心になってくる。書簡体形式の作品に触れるのは初めてだったが、兄の語りの形で書かれている文章は読みやすかった。この作品はしばし手紙の順番というものが議論に上がるが、作品を深く読めば読むほど内容の矛盾点や情報量の少なさからの新たな解釈など新たに気づかされる点が増え、初読だけでなく二度、三度と楽しめる作品に仕上がっている。文明社会から隔絶され、持ち込んだ聖書を頼りに生活をしていく二人、初めこそ聖書の教えによって島を楽しく快適に過ごすが、逆に聖書の教えを信じることによって徐々に島が”地獄”となり狂気へと変わっていく様子がかなり面白い。信念を持つことで、絶望的な状況においても世界を楽しく過ごすことができると同時に、信念に忠実なあまり自らを苦しめてしまうというジレンマ。最近物事に対するやる気が薄れている人は、この作品を読んで何か信念や信仰を持つことで日々の生活に活力を見出すことができるというヒントを貰えるかもしれない。
(764文字)

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基礎教養部

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