民間防衛

『民間防衛』スイス政府(著)

書評
執筆責任者:Tsubo
スイス.一般的には美しいアルプスの山々と緑に囲まれた平和で豊かな国という認識をされることが多いが,安全保障に多少の興味のある者ならば「重武装によって自国の独立を守り抜く永世中立国」という印象をまず思い浮かべるだろう.本書はそのスイス政府が中立,及び独立を守るために有事,平時を問わず国民一人一人が取るべき姿勢を示すため配布したパンフレットを邦訳したものである.(ただし,当時は米ソの緊張が比較的緩和されていたため,また平和主義者を含む政府に批判的な勢力をまるでソ連の手先だと言わんばかりの内容であったため,配布に対し強く反発するスイス国民もいたらしい)内容としてはまず守るべきスイスの「自由,独立」の価値を説き,それを守るには有事だけではなく例えば避難所の設置や物資の確保といった平時においても備える必要があること,及び揃えるべき具体的な物品等を説明している.次に有事に至るまでの過程を説明し,その段階でどんなことが起こり得るのか,配給や「敵」が取りうる行動,そして緊張が極度に高まった状態でも理性と冷静を保つべし,と述べる.そして,有事-軍事力に依る,依らないを問わず-そのような事態における対処,占領後におけるレジスタンス活動まで扱っている.まさに私たち「民間」が我が国の自由や独立を「防衛」するために必要な情報のほぼ全てが詰まっている本である.もちろん,前述したように内容は今日を生きる私たちにとっていかにも古臭い箇所も多い.しかしながら,本書から学ぶべき内容は「平和を欲さば戦に備えよ」という姿勢,そしていかなる状況下でも冷静さ,合理性を保つ姿勢である.ついに我が国でも台湾有事が現実味を帯びたものとして扱われ始め,防衛装備の抜本的質,量の強化が始まった.楽観主義に陥ることなく,また排外主義のようなヒステリーにも陥ることなく「有事」に備えるため,本書を読者諸兄に推薦する次第である.
(796文字)

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