現代ロシアの軍事戦略

『現代ロシアの軍事戦略』小泉悠(著)

書評
執筆責任者:Tsubo
−ロシア.日本からいちばん近く,そして遠い国.ヨーロッパの優美さと,アジアの力強さを兼ね備えた国.そして,数多の外敵に侵略された歴史が故の臆病さと,これまでの侵略の歴史に証明される凶暴さという性質の両方を兼ね備える,複雑な国.本書は,そんな複雑なロシアの,現代における「軍事戦略」というこれまた複雑なテーマを基礎から説明する書である.さて,ロシアの軍事戦略を理解するためには,まずロシアが持つ現状に対する認識を把握する必要がある.つまり,「ロシアは米欧などによる経済的,思想的といったあらゆる脅威にさらされ続けており」,「旧ソ連が崩壊し,ロシアがこれほどまでに弱体化してしまったのはそのせいである」という認識である.これは,日本に住む我々からすればやや荒唐無稽なものに映るかもしれないが,中東などで起きた「カラー革命」,そしてNATOの東方拡大と言った事実から鑑みれば,そう的を外れたものでもない.そうした認識から,ロシアは「行動に統合された,公然,非公然を問わない軍事,非軍事,民間分野の手段」という「ハイブリッド戦争」という概念を練り上げた.現在特に注目されているサイバー領域での攻撃,SNSなどのメディア領域での活動などがその側面として有名である.クリミアでも,住民に対しロシアが情報統制を行い,併合に関する住民投票においてロシア有利に運ばせたといわれる.ただし,従来型の「ハードな」軍事力もその意義を失ったわけではない.クリミアやドンバスの事象は,ハードな軍事力抜きにしては進展しなかった.このように,「ハイブリッド戦争」は前線,銃後関係なくより高度にかつ統合的で,日常に浸透した形で行われる.先進西側諸国,G7の一員たる日本に住む我々も無関係とは言えない.その対処法はただ一つ,「理性的に恐れること」である.本書はその手段として最適なものであると私は信じている.
(786文字)

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基礎教養部

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