音楽の聴き方 聴く型と趣味を語る言葉

『音楽の聴き方 聴く型と趣味を語る言葉』岡田暁生(著)

書評
執筆責任者:Naokimen
音楽の聴き方は真の意味で自由と言えるだろうか。たしかに、音楽には数学のような厳密な正解というものがないので、そういう意味では音楽をどう聴こうが自由だと言えるだろう。しかし、音楽の聴き方には「聴く型」というものがある程度存在し、この意味では音楽の聴き方は完全に自由とは言い難い。「こういう音楽が来たら、こういうパターンとして聴く」という暗黙のルールが音楽鑑賞の世界にも無数に存在し、我々が普段音楽を聴く際にも、意識的にではないにせよそのような「聴く型」なるものを用いているのである。例えば、三部形式、ソナタ形式、ロンド形式といった曲の形式としての型がある。クラシック音楽に精通している人は三部形式で書かれた曲を、小節ごとの細かいまとまりの連続として聴くのではなく、もっと大きなまとまりを捉え、曲全体がABAの形式になっていることを意識して聴くのである。また、音楽に対する反応の仕方についても様々な型が存在している。ベートーヴェンの「第九」を聴くときの反応の仕方はその例として分かりやすいだろう。このようなクライマックスへ向けて盛り上がる音楽を聴く際には、我を忘れて喝采を送り、他の人たちとその感動を分かち合うのである。このように、音楽の聴き方には様々な次元における隠れた「型」が存在している。上で例に挙げたような音楽の形式、音楽への反応の仕方だけではない。音楽の言語化に関する型、音楽の文化的背景が規定する型などもそうである。これらの音楽の聴く型を一度意識化し、整理するというのが本書の目的である。本書では様々な音楽の例が挙げられているが、それらのほとんどがクラシック音楽である。だからといってクラシック音楽に限った音楽の聴き方が述べられているわけではなく、本書で書かれている音楽の聴き方は様々なジャンルの音楽に対しても通用する。したがって、本書は音楽が好きな全ての人にお勧めできる。
(791文字)

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