紀州のドン・ファン

『紀州のドン・ファン』野崎幸助 (著)

書評
執筆責任者:けろたん
エーリッヒ・フロムは名著『愛するということ』の中で、愛を “Art”、つまり技術の問題として論じた。フロムに言わせれば、愛とは本能や衝動に自己の制御をまかせず、他者との関係を能動的に構築するために意思を制御する技法のことである。残念ながら、フロムは愛の理論を述べるようには修練について多くを語らない。それでは、どうやって愛を実践すればよいのか。新時代のクリーンでオープンな「性教育」には、はなから答えを望むべくもない。我々は愛のきっかけをつかむ必要がある。もし、他者を求め合う人と人との出会いがあるならば — 性別を問わず、どのような形であれ — 、それが恋の萌芽となりうることは間違いない。「ハッピー・オーラ、ハッピー・エレガント、ハッピー・ナイスボディ。あなたとデートしたい、エッチしたい」これが、著者が恋愛に方向づけられた偶発的な出会い=ナンパに使う声掛け文句である。本書は、生涯をかけて女性を口説く方法を探求し、実践し続けてきたとんでもないエロ男の自伝である。ときにコンドームの実演(!)販売をおこない、ときに現金封入の特注名刺でキャビンアテンダントを口説き、はたまた強盗に睾丸を危うく切り裂かれそうになりながら、まだ見ぬドストライクの女性を追い求めるスケベ魂一心で、金を稼ぎ、女性を口説く。「好みの女性とエッチしたい。」著者は年齢による衰えなどもろともせず、エロいことを考えるだけで若さが蘇ると豪語する。本書の副題には「美女40000人に30億円を貢いだ男」とあるが、著者にとって金はあくまでも手段に過ぎない。本書を読めば、数多くの女性との出会いをもたらしたのは、女性を追い求める彼の熱意であり、それに比べて30億円という金銭は取るに足らないものだとわかるだろう。恋は技術だが、技術だけでもない。あなたは一生で何人を口説けるだろうか。
(772文字)

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