『ヤンキーと地元』打越正行 (著)
書評
執筆責任者:Tsubo
本書は,主に「参与観察」という社会学上の一手法にて,沖縄の若者文化や生活実態を記録したものとなる.参与観察とは,ある社会集団の内側へ入り込み得られた経験や知見を,観察者の視点や主観を通して記述するものとなる.統計上の記録やデータなどでは伺い知れないような情報や分析を得ることにその目的が存在する.本書の内容は,大きく分けて暴走族に所属している若者,建設業における現場作業に従事する若者,性風俗業(キャバクラ)において店舗を経営する若者等へ筆者が膝を突き合わせ,直に話を聞き記録したものをまとめた記述にて構成される.我々沖縄以外に居住している人間にとり,「沖縄」という場所はしばしば様々な「色眼鏡」にて観察され,語られる.「観光地に恵まれた,風光明媚でゆったりとした時間が流れる場所」というものはそのような視点の典型であるだろうし,「本土復帰後も多大な基地負担に喘ぐ可哀想な被害者」という視点もまた典型であろう.それらの視点は,おおよそ的外れなものではないだろう.しかしながら,沖縄で働き,生活する人の視点からしか見えないものもあるだろうし,本書のような「地元で生きるヤンキー」の人たちからしか見えない,語れない話もまた多数存在する.特に,今までの学術活動や報道活動においては,沖縄における「ヤンキーと地元」という視点は価値がないものとされ,議論されていなかったのではなかったか.本書は,まさにその欠けたピースを完全に近い形で埋める書籍である.これまで十分に鑑みられることがなかっただろうし,また参与観察を用いる形でのみ得られる視点が,おおよそ300ページにわたって綴られている.その中身については読者各人によって解釈が分かれるだろうが,まずは本書にある記述を受け止めてもらいたい.「沖縄」とは,「地元」とは,そしてこの日本という国とは,考える上において必須である一冊である.
(787文字)
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