『母という呪縛 娘という牢獄』齊藤彩 (著)
書評
執筆責任者:Takuma Kogawa
不適当な表現を承知でいえば、殺人事件には独特の魅力がある。親の介護に疲れた末の殺人、人生がうまくいかないことにいらだっての無差別殺人など、どれだけ残忍な事件であるとしてもその背景によっては見方が変わりうる。本書は、親の強い希望により医学部受験で九浪した娘が母親を殺害した事件を題材としたノンフィクションである。第一審では懲役15年、第二審では懲役10年が言い渡され、上告なく刑が確定し、現在服役中である。娘は母親を殺害して一息ついてから「モンスターを倒した。これで一安心だ。」とSNSに投稿した。殺害という行為そのものは褒められた行為ではなく、判決に従って服役するべきであると思う一方で、娘にとってモンスターとの生活は非常に苦しかったものと推察され、殺害はひとつの救済への道であったということはできるだろう。母親は俗にいう教育ママよりもずっと厳しい教育を娘に施していた。例えばアナログ時計の読み方を学習している際に、娘が間違うと母親は机をたたき舌打ちしながら叱責した。別の機会に激昂した母親が包丁を持ち出して娘ともみ合い、娘の腕に刃が当たり皮膚が避けるという事故や、母親が意図的に熱湯を娘にかける傷害行為も起きた。このような経験から、娘は母親が望むようなことをするように刷り込まれていった。現役での医学部受験で不合格になり浪人生活に入ってから、娘は家出や就職など母親から離れることを試みるも、母親に探偵を雇われるなどされたためにすべて失敗に終わった。最終的には看護学科に進学して助産師資格を得ることを母親から求められたのだが、助産師コースに進むことはできなかった。別の助産師学校を受験して不合格通知を受け取った翌日に、娘はモンスターを倒した。殺人事件にまで発展しないにしろ、このような親子関係はありふれているのかもしれない。本書を、熱心な教育の負の側面を考える題材にしてはいかがだろうか。
(794文字)
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