ドーパミン中毒

『ドーパミン中毒』アンナ・レンブケ (著), 恩蔵絢子 (翻訳)

書評
執筆責任者:Hiroto
時々、何かに病的に依存している人を見て、それを病的だと思うのと同時になんとも幸せそうだと羨ましく思うことがある。負けてもなお幸せそうにパチンコ屋をあとにする人間は、お金と幸せを短絡的に結びつけたがる現代人にとって、重要な何かを示唆しているように思えるのだ。先進国では幸福追求権なるものが保障されているようであるし、文化的に最低限度の生活を送れている人が次に目指すのは、幸せな生活であることはほぼ間違いない。しかし、お金持ちであるとか、友達が多いとか、そういった言語情報をかき集めても残念ながら幸せそのものにはならない。直接的に幸せという状態を述べるのに有効だと思われる一つの手段は、神経伝達物質やホルモンの分泌について述べることであろう。今回紹介する書籍『ドーパミン中毒』は、快楽に直結する神経伝達物質ドーパミンの作用について、豊富な臨床的事例を用いて述べた本である。本書の内容の中で特に強調して触れたいのは「苦痛と快楽のシーソー」と「徹底的な正直さ」の二点だ。本書によれば、強い快楽刺激に長時間触れると、その反動で刺激がない状態に苦痛を感じるようになり、また、快楽を感じにくくなっていくそうだ。本書ではこの現象をシーソーとその支点を用いて例えている。現代の「ドーパミン経済」下で快楽刺激を貪欲法的に摂取した場合、ほぼ間違いなく人間は依存症になるだろう。依存症は倫理的に良くないのではなく、快楽を感じにくくなり苦痛が増加していくという点で単純に気持ち良くないのだ。この不感状態を避けるには、俯瞰的(言語的)に自己を分析する必要があり、そこで大切なのが自己の状態に関する「徹底的な正直さ」だと論が展開される。本書では依存から脱却するためのより具体的な(薬に頼らない)ステップも述べられているため、何かへの依存からの脱却を試みる現代人には、薬に頼る前にぜひ本書を一読することを推奨する。
(791文字)

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