学びとは何か-〈探究人〉になるために

『学びとは何か-〈探究人〉になるために』今井むつみ(著)

書評
執筆責任者:ゆーろっぷ
ジェイラボは「学び」コミュニティである。しかし、「学び」とはそもそも何なのだろうか。それは一体どのような過程を指し、どのような仕組みに基づいているのだろうか。本書はこのような疑問について、認知科学の研究者であり一般向けの啓蒙書も多く執筆している今井むつみ氏が、認知科学の視点から考察していく一冊である。認知科学という言葉は少々とっつきづらい印象を与えるかもしれないが、本書の内容はあくまで一般書の範疇にあり、専門用語も豊富な例を示すことで理解しやすいように配慮されている。その中でも、学びの仕組みを理解する上で特に重要な概念が「スキーマ」である。スキーマを一言で言うなら、状況の背景を把握したり情報を選別したりするための、身体化された知識の体系のことである。これは学び(熟達)において極めて重要な役割を果たす。スキーマを形成し、精緻化していくことこそが学びであると言ってもよい。しかし、これは度々非常に大きな困難を含む過程であると筆者はいう。学習の初期においてスキーマの形成は必須であるが、これは必ずしも正しいものとは限らず、誤ったスキーマは学習を妨げることがある上に克服も難しい。中でも重大な誤認識は、「知識とは客観的な事実であり、それを多く覚えることが学びである」という、断片的知識モデルの知識観である。この知識そのものについての誤ったスキーマを持っていると、知識のシステムをうまく構築できず、折角覚えたものも「使えない知識」となってしまう。このような誤りを乗り越え、「生きた知識」を獲得するにはどうすれば良いのか。また、それを極めた先にある熟達者が持つ特徴(直観や創造性など)は一体どのようなものなのか。このような問いについても、認知科学の実験などを織り交ぜながらその中身を掘り下げている。本書を通じて、皆さんが持つ学習観──学習についてのメタ的なスキーマ──を見直してみてはいかがだろうか。
(799文字)

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基礎教養部

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