非線形科学

『非線形科学』蔵本由紀 (著)

書評
執筆責任者:Shun
現代科学、とりわけ現代物理学は複雑な自然現象を可能な限り分解して調べ、後に統合するという手法によって確立されてきた。物質から始まり、分子、原子、原子核、さらには電子、陽子、中性子といった、よりミクロな世界の不変(普遍)なものへの探求の効果は絶大で、その結果として発見された量子力学等の学問は良くも悪くも世界に大きな影響を与えた。複雑な現象を切り落として考えることで見失われた事柄を放置するのではなく、複雑な世界をそのままに認めて調べ、理解しようとするのが非線形科学の立場である。非線形現象の例として、初期条件の微小な違いが時間発展と共に急速に増大する「カオス」や、異なる周期をもつ振り子を近くに置いて振動させ、しばらく経つと振り子同士が似た揺れ方をする「同期」などがあるが、この現象の複雑さは、全体が部分の総和として理解できず、部分の相互作用が生じることに起因している。本書は、非線形現象の一種である同期現象を記述する「蔵本モデル」を提案したことで有名な蔵本由紀氏が、非線形現象に対していかにしてアプローチするのかを、様々な複雑現象を例にとって紹介する構成となっており、自然現象の新たな見方を一般の方々にも理解できるように提案することを目的としている。モデルを構築するために近似や方程式の非線形項を排除して線形化するといった操作をしたことのある方は、それが非線形科学のアプローチと何が違うのか、あるいは同じなのかを意識すると楽しめると思う。非線形現象は複雑であるからとっつきにくいと感じる方もいると思う。しかし、非線形現象はマクロな世界の現象であるから身近な事柄と関連する例が多いため、親しみを持って読み進めることができると思う。終盤には、物理学とは全く異なる分野にも非線形科学の特徴が現れるといった意外な結果が記されているため、非線形科学のカバーする領域の広さに関心することになるであろう。
(796文字)

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