漬け物大全 世界の発酵食品探訪記

『漬け物大全 世界の発酵食品探訪記』小泉武夫(著)

書評
執筆責任者:ingen
漬物は日本全土、世界各地に根付いた文化である。現在スーパーなどで購入できる漬物といえば白菜の塩漬け、キムチ、ピクルス、沢庵などである。これらの漬物がどの様な方法で漬けられるかを知っているだろうか。そのくらいのことは想像がつくという方もいるだろう。ではそれぞれの漬け物の地域性に関してはどうだろうか。地元の漬物くらいは知っているというくらいだろうか。では、それぞれの漬け物の歴史的な由来はどうだろうか。このことを知っているのは漬け物マニアか専門家だけだろう。ちなみに福神漬けについて本書を見ると明治18年頃、東京下谷の「酒悦」の主人清右衛門が考案し製造したのが始まりとある。本書は漬け物大全という名前ではあるが内容は筆者の個性が色濃く出たエッセイである。そして本書は上記に書いたような疑問に答える様な本でもある。本書の著者は東京農業大学名誉教授(農学博士)であり文筆家でもある小泉武夫だ。日本経済新聞で長年掲載されているコラムで知っている人も多いだろう。また、小泉氏は食の冒険家として日本全国世界各地を訪れている。本書でもその経験が発揮されていて、各地の漬け物が味の感想と共に紹介されている。また著者の経験に加えて、各地の古い資料を引用することも本書の魅力である。一つの漬け物に関して古い文献が国やジャンルを跨いで引用されるのは驚くべきことだろう。最後に、本書でも紹介されている種田山頭火が詠んだ漬物の句を紹介する。「山のもの海のもの、どんなご馳走があっても最後の点睛は美味しい漬物の一皿でなければならない。漬け物の味がわからないかぎり、彼は全き日本人はありえないと思う」という句である。山頭火の漬物への思いが溢れる句であり、当時の人々にとって漬物が当たり前なものだったかを感じさせてくれる。本書によって多くの人が漬け物の魅力を再発見し、この山頭火の句に思いを重ねてくれたらと思う。
(790文字)

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