ジャスト・ベイビー:赤ちゃんが教えてくれる善悪の起源

『ジャスト・ベイビー:赤ちゃんが教えてくれる善悪の起源』ポール・ブルーム(著)

書評
執筆責任者:マッキー
『人間は生まれつき道徳感情と呼べるようなモノを備えているのだろうか?』本書はこうした問いに対して、臨床心理学的なアプローチで解明を試みるものである。著者は『反共感論』(白揚社)、『赤ちゃんはどこまで人間なのか』(ランダムハウス講談社)などの著書もある発達心理学者のポール・ブルーム。幼児や嬰児を対象としたいくつかの臨床実験では、人間は生育環境の影響を受ける以前から、善と悪を分ける感情、原始的な公平感、他者の感情を想像し共有する能力等を備えている可能性が示唆されている。そして一方で、生得的な道徳感情の限界についても本書では述べられている。それは自己と他者の線引きの過程において顕われる。人間は生まれた瞬間から、集団を“こちら”と“あちら”に分ける作業を無意識的に行う。生後数時間の赤ちゃんでさえ、異国語を話す人よりも、(おなかの中で聞いていた)自国語を話す人の方をより好む傾向がある。こうした生来的な傾向を社会的に望ましいラインまで拡張するには、「理性」の役割が重要であり、それが私たちの輪を広げていくものである。これが基本的な本書の骨子であるかと思う。本書の主張自体にはあまり新鮮味はないかもしれないし、最後の“理性”の部分については合理的な結論というよりも著者の理念・理想による部分が大きいように感じる。ただ、それでも本書は人間の道徳観の発達メカニズムについて、非常にわかりやすく、また平易な言葉により解説を試みてくれており、こうした分野への入門書あるいはまとまった知識を補給するための書籍として非常に有用であると思う。心理学に興味のある方だけではなく、子育て世代の方や子供の心理の発達過程に広く関心を持たれている方々は一度手に取られてみてはいかがだろうか。
(732文字)

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基礎教養部

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