「能力」の生きづらさをほぐす

『「能力」の生きづらさをほぐす』勅使川原 真衣 (著), 磯野 真穂 (解説)

書評
執筆責任者:YY12
本書は「能力」の生きづらさをほぐすとして所謂「能力主義」へのアンチテーゼを示している。要旨としては、能力主義から「関係主義」への変換である。つまり、「能力」という存在を個人に内在するステータスとして捉えすぎると不幸や誤解を引きおこすため、外部的な環境や関係性も追加の視点として考えようとする。実際、著者は一人一人の「能力」を測定してそれを「改善」させるような「人材開発」ではなく、大枠の「組織開発」に目をむける。思えば、学校教育でもなんでも「リーダーシップ」やら「コミュニケーション能力」やらを伸ばすようなプログラムを強いられてきた。だが、全員をそのようなかたちで序列化し万能化することに一体何の意味があるのだろうか。理論上は、全員が「全てをこなせる」というのは確かに魅力的である。だが、残念ながら各々が持っている「能力」には得意・不得意がある。「各々の長短を理解しそれをどう生かすか」を考えた方がよっぽど全員が幸福になれる道な気がしてしまう。持論だが、これは各々の役割を調整するのを面倒くさがるという組織の怠慢が表れている。日本の様な新卒一括採用では、研修や配属希望調はありつつも、「配属ガチャ」と揶揄されるようにあっちゃこっちゃ回せることもある。そのような世界では、当然オールラウンダーが重宝されるのも分かるし、オールラウンダー自体は別に悪くないのだが、本書でも書かれていたような「不幸な嚙み合わせ」を生む要因にもなっている。本書の主張は近々就職活動なるものを行わなければならない私の生きづらさを少しはほぐした。「能力」という透明なわたがしの様な実態を掴むまでは至らなかったが、実践的な意味では組織内での「関係性」を重視する考えは良い学びになった。著者の勅使川原真衣氏は現在ガン闘病中であるという。その様な中、今はまだ幼い息子や娘の将来を想って執筆された本書の熱意は確かなものがある。
(794文字)

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