学校では学力が伸びない本当の理由

『学校では学力が伸びない本当の理由』林純次(著)

書評
執筆責任者:蜆一朗
著者の林純次氏は, 京大教育学研究学の博士課程を修了された後、新聞記者やジャーナリストを経て、現在は関西の私立学校で教員をされている。第1章では、不登校の児童生徒の急増を前置きに、インターナショナルスクールや通信制高校の隆盛が著者の経験も踏まえながら報告されている。第2章では、教育業界のブラック化、教員の低レベル化、学校現場の理不尽な制度などを理由に、学校では学力が伸びないという主論が展開される。第3章では、大学全入時代ともいわれる現在ではもはや受験戦争という様相を呈していないという指摘がなされる。第4章では、教育業界の惨状が児童生徒に与える影響と、毒親に影響された児童生徒が学校教育を破壊する例が紹介されている。第5章では、学校及び教師の社会的地位の低下や世間の価値観の変容についてまとめられ、オンライン教育や海外のホームスクーリングの事例が引かれている。また、高い学歴を修めた人材の軽視についても警鐘を鳴らしている。そして最終章では、教育業界への著者からの提言が11の項目にまとめられ幕が閉じられる。記者やジャーナリストとして外部から、また教員として内部からも、著者は長年にわたって教育現場に向き合ってこられた。その経験や慧眼から、悲痛な叫びにも聞こえ耳をふさぎたくなるほどの惨憺たる現場の実情を、様々な視点から幅広く的確に指摘されている。また、筆者は学校は学力を磨くための場であるという立場に一貫している。大人の事情や質の低下によって子供たちに悪影響が出ることを何よりも懸念し、平等という大義名分の下に浮きこぼれたり落ちこぼれたりする生徒たちに、各自のレベルに応じた適切な教育の場を与えることを強く訴えられている。教育系 YouTuber についてほとんど触れられていないというのは少しばかり残念ではあるが、現状の整理という点で見ればかなり優れた本である。
(784文字)

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基礎教養部

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