複雑化の教育論

『複雑化の教育論』内田樹(著)

書評
執筆責任者:蜆一朗
教育というのは「子供たちの成熟・複雑化を支援する場」である。著者の内田樹氏はこう語る。身体や知識に関わる量的な増大だけでなく、人間的な厚みや深みを増して人格が多層化し、一筋縄ではとらえられない人間になっていくこと。このような質的な成長を内田氏は「複雑化」と呼んでおり、教育とは子どもたちの複雑化を支援する場であるべきだということが、本書では一貫して主張されている。本書は3つの章からなる。第1章では、本来は最大の目的とすべき複雑化が教育制度により阻害されていること、具体的には格付けの意味合いの強化と中高一貫教育がはらむ危険性という2例が挙げられ語られている。第2章では、市場原理や政府主導の管理コスト最小化原理主義によりどんどん単純化していく時代の潮流が学校にも流れ込み、複雑化を目指す学校教育に悪影響が及んでいることが説明される。要領よく効率よくという考え方がいかに教育や人間社会にとって危険を孕むものであるかについて、教育についてだけではなく、日本の民主主義の衰えにまで踏み込んで言及されている。第3章では、大学とは「バイアクシデント」な出会いを与えるものであるという前提に立ち、コロナ禍により導入されたオンライン授業による影響、具体的には一斉休校により強化された詰め込み教育が生んだ悪影響や、教育のグローバル化を実現する絶好の機会が訪れていることなどが触れられている。また、教員は「場」を主宰するために「リラックス」して「機嫌がよく」身体が「同期」している状態にあるべきだと内田氏は言う。自分の中に両立しがたいものを抱え自分の中で対話をしている人。物事を簡単に単純にすることなく複雑なものを複雑なまま抱える人。そういう立ち振る舞いにより他者に対しても開かれた状態になること。その重要性が語られている。後進の教育や指導に携わるすべての人に一読していただき、立ち止まってゆっくり考えてみてほしい。
(800文字)

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基礎教養部

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