よくわかる山岳信仰

『よくわかる山岳信仰』瓜生中(著)

書評
執筆責任者:チクシュルーブ隕石
日本の国土の約7割は山が占めているという。現代に生きる私たちの大半は、山に対して概念的な理解をしていたとしても直接の繋がりは無く、山を身近で神聖な場所と捉えることは少ないだろう。しかしその一方で、遥か遠い昔から山は「死者の魂が山の中を彷徨い、最後には頂上から天へと昇って神と一体となる」場所と考えられており、人々は山に対して信仰の心を持つと同時に一定の畏れを抱いてきた。その意味で山岳信仰という文化は、神道が起こる以前から存在していた最も原初的で素朴な祈りの形だった。この素朴な民間信仰は、時代が進むとともに神道や仏教などの宗教と強く結びつき、形を変えながら受け継がれてきた。まさに山岳信仰と宗教は不可分であり、山岳信仰の歴史を紐解くことは宗教の歴史の軌跡を辿ることに他ならない。本書では、神道や仏教、修験道、果ては政治などの歴史の流れや思想の変遷と山岳信仰という視点から書かれており、様々な視点から山岳信仰を眺めることができる。また、山伏の存在や山に生きる人々に伝承されてきたタブーなども詳しく書かれている為、信仰そのものに造詣が深くなくとも興味深い内容が多く書かれている。もし、本書のタイトルに含まれる「よくわかる」に警戒心を持ち、読むことを躊躇されている方がいれば警戒心を解き、是非読んでみることを勧める。このような信仰というスピリチュアルと対照的な存在として科学がある。科学の進歩は私たちの生活を非常に豊かにした。現代社会では、科学がなければ我々の生活は成り立たない。その反面科学を絶対視して非科学的なものを意味がないと断じるケースも増えた。しかし、この言説は危うさを秘めている。非科学である信仰には科学では、理解し得ない「何か」が潜んでいる。現代のような科学全盛期に山岳信仰という非科学について知り実際に山を眺めてみることは、科学の作り得なかった豊かさを私たちの心に創り出してくれるだろう。
(800文字)

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