村上ラヂオ

村上ラヂオ』村上春樹(著)

書評
執筆責任者:YY12
今回紹介するのは、村上春樹のエッセイである。村上春樹の作品を紹介するのに、小説ではなくエッセイを選ぶのは何事かと思われるかもしれないが、この本は私の読書体験の根源的な本のうちの一冊なのである。私は小中を海外で過ごしたため、日本語の本は気軽に買えるような存在ではなく、本といえば図書室で食い扶持を探すような状態だった。小中学生での読書体験は非常に重要なものだが、こじんまりとした図書館には正直あまり惹かれるものもなく、読むものといえば国語の教科書に載っている文章ばかりだったので僕はますます読書から離れていった。しかし、そんなある日、おそらく出張か何かで買い溜めしたものの一つだったと思うのだが、家に『村上ラヂオ』なる本が転がっているのを見つけた。特にやることもなかった僕は、エッセイという軽いジャンルだったこともあって読んでみたのだが、これが本当に衝撃的に面白かったのだ。『村上ラヂオ』は全3巻で、2巻の副題にもなっている「むずかしいアボカド」では、村上春樹がハワイに住んでいた際に、アボカドの熟れ具合をピタリと言い当てるおばさんとの出会いが描かれており、また3巻の「カラフルな編集者たち」では、小説家になって出会った風変わりな編集者たちの話がユーモラスに描かれている。ノーベル賞の有力候補にまで選ばれる作家が、こんな面白くて下らないことを日々考えているのかということですでに興味深いのだが、その文章力で何倍にも面白さが膨れ上がっている。今まで私が抱いていた「読書は退屈なもの」という概念を打ち砕き、「読書」の世界を広げてくれた本なのだが、今の時代「エッセイ」なんていうものは軽んじられている気がしてならない。事実、この本を薦めている私もどうも軽視している時期があった。自戒の念も込めて、日々の息抜きの一冊を探している方、読書の幅を広げたい方は是非手に取って頂きたい。
(784文字)

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