異邦人

『異邦人』カミュ(著) 窪田啓作(翻訳)

書評
執筆責任者:chiffon_cake
初読で衝撃が薄らいでしまわないよう、可能な限りネタバレしないで述べたい。まず悲壮を漂わせる一文からはじまる。しかしそのせいで、そのおかげで読み手はムルソーとのギャップを強く感じることになる。現代風の言葉でいえば、この男は「アスペ」なのだろう。だがムルソーの周りは、彼が変わっているという共通理解はあっても決して悪くは思っていない。それは彼の人間的な魅力、つまりある意味で、ムルソーがとても誠実な人物だからだろう。本編を通して、彼は自分の欲求に従い行動するし、思ったことを偽らない。読み手はムルソーから読み取る感覚のずれに不気味さを覚えるも、決して悪人ではないと知っている。そんなムルソーだが、物騒な事件に巻き込まれることになる。そこからムルソーは社会から排斥される。異常さは晒され追いやられていく。最後まで読めばムルソーがそういう人間だとわかるのだが、芯のない人間ではない。いや芯はずっと通っていた。一日を生きて全てに幸福を覚える。野心だとか夢だとか神だとか、形而上の全てが彼にとっては意味を持たない。むしろ彼にとってはそれのみが真実である。このことが、私に彼を超人にすら感じさせた。ニーチェが掲げたあの素晴らしい人物像である。終盤におけるムルソーの告白は息を呑んでしまう。個人的にクライマックスは最後だと思う。なぜ私がムルソーを素晴らしいと感じるかを知ってほしい。この文章には、美しい描写が散りばめられている。ほとんど誰でも共感できる些細な心地よさー精神的よりも肉体的で素朴な幸福ーを巧みに叙述している。作者であるカミュの生い立ちを知ると思想が伝わってくるようだ。ちなみに、文中でムルソーがアラビア人に対してどこか敵意っぽいものを抱いている表現が浮いて見えるが、これもカミュの生い立ちが関わっている。
(751文字)

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