トロッコ

『トロッコ』芥川龍之介(著)

書評
執筆責任者:チクシュルーブ隕石
『速さ』という概念は近代において大きな意味を持っていた。当時速い乗り物はほとんど一般の人とは無縁であり多くの人々にとって速さは憧れであった。芥川龍之介は大正期に活躍した小説家で、日本で最も著名な小説家といっても差し支えない。彼が主に活躍した大正期は大正デモクラシーという風潮が広まりさまざまなものが大衆化された時代でもあった。その流れは社会に光と影を落とし大きく社会が動いた激動の中で芥川は作家として活動していた。彼の作品である『トロッコ』では良平と速さの象徴であるトロッコをめぐる物語が描かれている。良平が数え年で8つ、つまり現在で7歳の時に起こった事をメインに話が展開されていく。彼は身近に速さを感じられるトロッコに惹かれて線路の中でトロッコに触る事ができないか画策している様子が描かれているが、その中で対照的ともいえる土工が登場する。麦わら帽をかぶった背の高い土工と若いニ人の土工である。本作を読めば分かるがこの土工達は非常に対照的に描かれておりそれが後々良平に大きな影響を与える事となっている。本書を読むと良平と土工のトロッコに対する捉え方の差によって様々な齟齬が生まれている様子が分かると思う。良平にとってトロッコは速さを体験できる究極の遊び道具であるのに対して、土工にとってのトロッコは大切な仕事道具である。麦わら帽をかぶった土工は良平にトロッコが遊び道具でない事を教えたのに反して若い二人の土工は労働を手伝わせている。そして大人の良平の頭の何処かに残っている記憶は小さな黄色の麦わら帽子なのである。妻子を持った良平は校正の仕事をしているが塵労に疲れている。彼も労働者としての役割を果たすようになり『労働』について理解したのではないだろうか?この文章を読んでくださっている方の多くはなんらかの形で労働をした事があると思うが、是非本書を読んで頂き大人の良平が感じた塵労について考えてほしい。
(794文字)

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基礎教養部

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