バッタを倒しにアフリカへ

『バッタを倒しにアフリカへ』前野ウルド浩太郎(著)

書評
執筆責任者:ほうむたろう
ファーブルを夢見た少年が昆虫博士へと邁進する。指導者の導きによりサバクトビバッタを専門にしたことは僥倖だったのかもしれない。蝗害による農作物生産に対する甚大な被害は周期的に起こる。FAOにも対策部局は存在する。自然災害による経済指標の悪化は国際政治経済に当然影響をあたえる。昆虫学の領域でありながら、国際的な社会問題のテーマであることは研究活動を支えるチャンスが大きくなりやすい。そんな若手博士に待ち受ける就職問題。ラボから飛び出しフィールドワークに夢と研究成果をかける。そこに待ち受ける自然とアフリカ社会。期限付きの任期と限られた活動資金。世代なのだろうかロールプレイングゲームを進行するかのような語り口に共感を覚える。そんな一人の男が博士として基盤を手に入れるまでの冒険譚が本書である。ポスドク問題、大学院へ進学することを入院と言い社会に出て専門ではない職に就くことを退院と揶揄される。博士、聞こえは良いがどうやらその先は闇が深く、病んでしまうことも良くあるらしい。単純なサクセスストーリーではない魅力がふんだんに散りばめられている。それは勇気の物語である。何かをやるときに必ず携えなければならないのは勇気だ。蛮勇ではない。常に迫られる決断の瞬間。背中を押すのは勇気なのだと本書を読み再確認できた。たまたまうまくいっただけさとニヒルに評してしまう気分のときもあるだろうが、少しでも気分が明るいときに本書のような体験を共有すると勇気が持てるかもしれない。そして、出会いと魂の共鳴の物語である。時間を超えて人は出会い。夢を見、思いをはせる。空間を超えて言語を超えて人は出会い思いを受け取る。ファーブルに出会い、アフリカの地でババ所長に出会う。読者は著者を通してその思いに触れることができる。ウルドに込められた思いに私は少し元気になれた。鮮明な昆虫の画像が差し込まれている。苦手な方は注意されたい。
(798文字)

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基礎教養部

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