砂戦争 知られざる資源争奪戦

『砂戦争 知られざる資源争奪戦』石弘之(著)

書評
執筆責任者:ほうむたろう
ビルも道路も埋立地も……文明を推進する「砂」の争奪戦が始まっている。砂と言われて何を想起するだろうか。砂浜、砂場、甲子園の砂、砂上の楼閣。砂漠、温暖化。どこにでもあるもの、入手容易なもの、そのようなイメージが私にはあった。本書はそれを覆す内容であり、コモンズ、資源に対しての態度を再考させられる。砂が現代の生活基盤を支える根源的な資源として、どこに大量に投下されているかを提示する。建築物の基礎たるコンクリートに始まり、土地を拡張するための埋め立て資材として土砂。そのような用途に耐える砂は、どんな砂でもよいのか。用途別で砂に求められるスペックを提示する。超高層ビルのコンクリートになる砂は、粒子の大きさと形状が頃合いで、塩分控えめな砂が向いているらしい。資源としての価値の高まりは供給源にも当然影響が出る。砂はいつどこで、誰の手によって供給されているかを明らかにする。原油や鉄鉱石など所謂資源を採掘し集めるためには、それなりの資本が必要だが、砂は掘って集めればよい。また、要求されるスペックがあるとはいえ、所謂資源に比べ、どこにでもある。特に河川の底が都合良いようだ。資本も掛からず金になるなら世界中の砂需要を満たすための餌食になるのは、いつの時代も途上地域だ。途上地域、資源獲得競争ときたら、裏社会がセットになる。力こそ正義。いい時代である。供給鎖の上流だが、砂は国土、足元である。それを乱獲すると、当然のように環境変化を呼ぶ。格好の採掘場たる河川の底に大きな変化を起こせば、どうなるか。本書で確認してほしい。採掘場と消費地は国をまたぐ。採掘された地域に残された爪痕をみるに、正に売国奴(売国土)たる所業。無限に膨らむ需要にこたえようと、資源を刈りつくす先に見える世界はどうなるのか。資源再利用の事例も挙げられているが、足元を考え直すにはうってつけの素材、それが砂戦争なのかもしれない。
(795文字)

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