「助けて」が言えない

『「助けて」が言えない』松本 俊彦 (編集)

書評
執筆責任者:Tsubo
「困ったときには助けてほしいと他の人に言おう」- 貴方が家庭や学校,職場にて何度となく聞いた言葉ではないだろうか.最初から他人を頼るのは無責任だし,そもそも他人から見て自分が「困っている時」とはわからないのだから,まずは自分で色々やってみてもしそれで何か困ったのなら他人に助けを求める.これは一見「正しい」姿勢であるとは言える.しかしながら,この言説にはある重大な事実を見逃している.それは,この社会や世の中には例え自分が「困っている」と認識していても他人に助けを求めるのは恥だと感じ,またそもそも助けを求めても理解してもらえないと思ってしまい他人を頼れない-「助けて」が言えない人たちがいるということである.この本は,薬物や自傷等に依存してしまい」「助けて」を言えない人たちの心理を支援者の観点からまず扱う.そして,医療や福祉,心理臨床などの立場から,「助けて」を言えない子供,犯罪被害者,依存症患者,ホームレスやLGBT Qの人たちの背景や実情を議論する.この本の全体を通して浮かび上がってくるのは,何かあれば「助けて」と言えることを前提にするという姿勢が,いかに困っている人を抑圧する自己責任的なものであるかという指摘,そして「助けて」と明言しないうちにいつの間にか,なんとなく助けてもらえる他人-「依存先」-を増やすことがいかに重要であるか,ということである.それは,「人間は常に誤りながら,転びながら前に進んでいくのであり,たくさんの人たちに引っ張ってもらうのはなんら恥ではない」という主張である.当事者や支援者といった立場に関係なく,「強固な自己」,「理想とする自己の実現」を求められる息苦しい現代社会を生きるすべての人々に対し,その無意識な思い込みや偏見を解体してくれる良書であると私は推薦する.
(755文字)

追加記事 -note-

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

ジェイラボ
基礎教養部

コメント

コメントする

目次