『午後の恐竜』星 新一 (著)
書評
執筆責任者:YY12
画数が少ない文字を美しく書くのは線の一本一本が重要になってくるため非常に難しい。例えば、漢数字の「一」を想像すれば分かりやすいだろう。そこには素人と玄人で歴然な差が出てくる。私は、このことを文学においても通ずると思っている。少ない文章量で登場人物のキャラクターや背景を組立て、良質な作品として読者に提供することは匠の技である。そして、そんな匠の技を高いレベルで有しているのが今回紹介する書籍の著者である「星新一」である。400字詰め原稿用紙10数枚程度の文量で様々な短編SF作品を残しており、現在では「ショートショートの神様」とも称されている。短いながらも面白く、本質を突くその作品たちは、没後も世界20ヵ国で翻訳出版され多くの人に読み継がれている。私が星新一に出会ったのは中学の頃である。当時、こんなにも短い文章量でここまで面白く奥行きのある話が書けるものなのかと驚いた。しかも、彼の作品は常にどこかシニカルでダークな雰囲気をまといつつ、話のオチがとにかく「面白い」のである。実際、星新一は「ちょっとでもいいから面白かったと思ってもらえるもの、この作品に巡り会うために生きていてよかったと思ってもらえるもの」を目指していたそうだ。人の欲や社会システムの欠陥を斜め上から見下ろしながらも登場人物を通じて興味深く描いたその作品達は歳を取った今でも私を十分に魅了している。今回紹介する『午後の恐竜』にもそのようなショートショートが全11篇収録されており多くの魅力が詰まっている。個人的には『きまぐれロボット』や『ボッコちゃん』に匹敵する程の素晴らしい内容である。特にタイトルにもなっている「午後の恐竜」は主人公の悲壮感が巧みに描かれると共に、2つの異なる内容が綺麗に1点に収まっていくストーリー性がとても面白い。是非星新一ワールドを楽しんでみて頂きたい。
(775文字)
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