夏の庭

『夏の庭』湯本香樹実 (著)

書評
執筆責任者:ジパング
人が死ぬということはどういうことだろうか。一度や二度誰しもが考えたことがあるテーマであろう。特に小学生の年頃は純粋な好奇心から死んだらどうなるのか周りの大人に尋ねたり、自分なりに考えたりするものである。本書は人が死ぬ瞬間を見てみたいという好奇心から、主人公たちが近所のおじいさんを観察するところから始まる。やがて観察から徐々に関係が近づき深い交流へと発展する。主人公たちはそれぞれ家庭に問題を抱えているが、小学生である主人公たちはその問題に対してただ見守ることしかできない。そんな中、死を見てみたいということから始まったおじいさんとの付き合いを通じて、主人公たちは初めて大人に対して干渉をする。おじいさんとの関わっていく中で本書のテーマでもある”精神の成長”を遂げ、今までただ見守るだけだった問題に対して、視点を変え自分なりに考えるようになるなど、ただただ周りの世界に流されていたものが、自分なりの意見を持ち新たな世界を切り拓く力を手に入れる。そんな彼らでもいざ死に直面すると自分にはどうしようもできない無力さや、突如として現れる衝撃など、死といういつ誰に起きてもおかしくない事に気づかされ、改めて人の死について理解をする。序盤の純粋な好奇心からくる死に対する発言と、後半の死を通じて得られた精神の成長後の人の死との向き合い方について、主人公たちの描写がよく書き込まれており、明確に主人公たちの精神の成長を感じることができた。物語自体は非常に単純な展開で予想外の結末といったことはないのだが、主人公たちがおじいさんと関わっていく中で成長していく描写が丁寧に書き込まれている。序盤の死を通じて彼らの価値観がどのように変化し成長していくのかぜひ本書を読んで確かめて欲しい。
(734文字)

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