無私の日本人

『無私の日本人』磯田道史(著)

書評
執筆責任者:バックれ
今回私が紹介する書籍は歴史学者、磯田道史の「無私の日本人」である。磯田氏は膨大な量の古文書を原書で読むことでその筋では有名な人物であり、実際の江戸時代の武士家庭における収支を記した古文書を元にした作品「武士の家計簿」は映画化されるほどの人気を博したため、ご存知の方もいるであろう。そんな彼に娘が生まれた折、彼は将来この娘が生きていく日本という環境が大変厳しい状態になることを危惧していた。激動の時代の中で取り残される日本と著しい成長を続ける隣国、南海トラフ地震による巨額の損失予想とそれを皮切りに起こるであろう経済危機。大陸より貧しい日本がこようかという中で、歴史学者として娘に残す・伝えるべきことは何か…。「武士の家計簿」において、激動の時代を背景に時代が変化しても役に立つようなスキルを見極める目とその技術の習得することの重要性を説き、ある意味では一つの答えを出したと考えていた彼であったが、不足を感じていたという。長い思索の末彼が辿り着いたものは「財布を落としても交番に届け出れば帰ってくる」という日本国民の高い倫理性であった。貧しくなっても心が不安定にならないように、この倫理性を失わないようにするということを子供達に伝えるべきだと考えたのだ。その源泉がどこにあるのか、いかにしてこのような国民性が生まれたのかを探った彼はその土壌が江戸時代に完成を迎えたと結論付けた。江戸時代の人々は「足るを知る」人たちであったという。そしてその結論に至るまでに出会った3人の清廉の士、穀田屋十三郎・中根東里・大田垣蓮月の生き様が本書に収められている。織田信長や豊臣秀吉よりも子供たちに伝えたい人物がいると彼は述べる…。
(706文字)

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基礎教養部

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