ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち

『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』レジー(著)

書評
執筆責任者:ゆーろっぷ
中田敦彦、ひろゆき、堀江貴文、DaiGo……経済的成功をバックボーンとしたこれらの面々が「生き抜くための教養」を断定的口調で語る時代に、不安や違和感を覚える者も少なくないのではないか。教養を成功(金儲け)のためのツールとして捉え、全てを「コスパ」に還元する教養系コンテンツ及びそうした教養に対する態度を、本書では「ファスト教養」と定義し、それが受容された背景やその負の影響を論じている。著者は企業勤めのビジネスマンという立場を確立する傍ら、音楽評論を行うライターとしての顔も有しており、ビジネスと文化の両方の視点を交えている点で本書の主題に対する切り口は新鮮である。実際、現代におけるファスト教養の実情、その趨勢に至るまでの流れや時代背景、文化への影響などを著者独自の視点で語っている。またその中で、小池百合子などの政治家の発言に端を発する自己責任論、それを圧倒的な個の力によって「稼ぐが勝ち」の新自由主義的精神と共に押し広めた堀江貴文、その流れを汲んでファスト教養の源流を作った勝間和代やNewsPicksなど、時代ごとの中心的存在を具に解説し、彼らの言動の背景にある思想を浮き彫りにする。そして、そのカウンターとなりうるもの──偶然性、利他、他者に対する想像力──を読者に示唆してくれる。時代の大きな潮流を克明に描きつつ、背景にある時代精神を指摘し、その表出としてファスト教養の趨勢を位置付けるという、現象の表面的批判にとどまらないこうした議論展開を、本書の推薦理由としたい。ただし、ファスト教養に対する解決策としては個人としての意識付けを述べる程度で、社会全体としての「乗り越え」に至ってはほとんど何も述べていないに等しい。引用が主体の本書に「解答」を期待してはならない。しかしそれでも、「教養系」を表面的に批判するよりは、本書を通じて根底の問題意識を共有しておく方が遥かに建設的なはずである。
(800文字)

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基礎教養部

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