どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?

『どうせ死んでしまうのに、なぜいま死んではいけないのか?』中島義道(著)

書評
執筆責任者:Yujin
この本では、「死」という身近なものでありながら、誰もがつい目を逸らしてしまうテーマについて誤魔化すことなく真っ直ぐに語られている…というだけではない。「死とは〜である!なぜなら…」という内容ではなく、「なぜいま自分は(死ぬことなく)生きているのか?」という疑問に絡め取られた”ごく僅かな”人々に対して、その疑問を解決する(かもしれない)ヒントや、この社会とどう折り合いをつけて生きるべきかということについて述べているのだ。実際にタイトルにもなっている疑問に対する答えが明確に述べられているのは「文庫版あとがき」である。もちろん本文中にはヒントが散りばめられているので、それを参考に自分で考えるのが最適な読み方だろう。つまりこの本は、「死」に思い悩む少数の生きづらい人々に合う生き方を提案しているのだ。ところでこの本を読んで抱いた感想だが、中島先生のなんと生きづらいことだろう。考え方だけでなく味覚による感じ方まで、あらゆる方面で世間一般と大きく乖離している。特に偏食に関する節(第3章)はかなり強烈だと感じた。大偏食家だが他人と食事を共にしなければならないという苦しみは、100%共感はできないにしても、その過酷さは僕ですら想像に容易いほどである。著者は、それゆえ多数派に迎合することができず「暴力」を受けてきたからこそ、世間から半分脱出(半隠遁)し、一歩引いた立ち位置から世相を見ているのだろうと推察する。更に「あとがき」にもなかなか強烈なエピソードが書いている。中島先生の知り合いの“K君”の自殺についてである。もしあの時こうしていれば自殺を止められたかもしれないという仮定はなんと虚しいことか。考えたところでわからないのだから。しかし、その虚しさを知りつつも、それが不条理であると理解していても、それを直視せざるを得ない状態を「哲学病」と呼んでいる。哲学病を持つ僅かな人々こそ読むべき本だろう。
(800文字)

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