シーシュポスの神話

『シーシュポスの神話』カミュ (著), 清水徹 (翻訳)

書評
執筆責任者:Yujin
思春期を通過した人間ならば一度は打ち当たる問題、人生は生きるに値するか否か。この問題について、若い頃から結核に苛まれ常に死と隣り合わせであったカミュが追究し到達した結論を著したものが本書『シーシュポスの神話』である。カミュはこの問題を真に重大な哲学上の問題として取り上げている。多くの者を死に至らしめるものであり、もっとも差し迫った問題であるからだ。この問題に人々が直面する原因は、カミュの言う「不条理性の感情」である。誰しもが抱き得る感情であり、カミュはその感情を明晰な意識のもとで見つめ続け、彼自身の結論に到達した。本書ではまず不条理性という感情が存在していることが出発点となり話が始まる。序盤は抽象的な論考が続くが、途中途中で、不条理から離れてしまった哲学者、不条理の精神を持ち続けた幾人かの生き方、不条理な職種を説明することでより具体的な「不条理性」を明らかにしていく。それらの例を挟みながらも、カミュが不条理性から得た3つの結果、「反抗、自由、情熱」の説明もしている。そしてカミュは、不条理を見つめ続ける態度(反抗)を重要視し、その態度を投げ出してしまう行為=自殺はするべきではないと否定する。本書の言葉遣い、引用する哲学者の有名、深い思考などから「不条理性の感情」がなにか高邁な感情のように思えるが、カミュが挙げた例によれば嫉妬、野望、エゴイズムなど、(哲学者でない)私が日頃感じるものも含まれる。ただし、それを理性で、そして言葉で極限まで突き詰めて、そこで初めて非人間的な世界の存在に気づき、しかし理性での説明も求める板挟みの状態になる。ここに「不条理性の感情」があるのだ。私は本書を中島義道の著書で知った。中島先生は「感情の探究」をすることで人生が豊かになると言う。これを実践をすることでいずれはカミュのいう「不条理性の感情」に到達するのだろうか。そしてその先の結論を知れるだろうか。
(800文字)

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