友だち地獄

『友だち地獄』土井 隆義 (著)

書評
執筆責任者:イスツクエ
今回紹介する本は土井隆義氏の「友だち地獄」である。親友とは何かと問われたとき、従来なら互いの対立や葛藤を経験しながらも、訣別と和解を幾度と繰り返す中で、徐々に揺るぎない関係を作り上げていけるような間柄と答えることができただろう。それに対し、絶えず場の空気を読みながら、友人との間に論争をつくらないように心がけるような対立の回避を最優先にするような人間関係を本書では「優しい関係」と呼ぶことにする。これは他人と積極的に関わることで相手を傷つけてしまうかもしれないことを危惧する今風の「優しさ」の表れである。かつての若者たちにとっては、他人と積極的に関わることが「優しさ」だったとすれば今日の「優しさ」の意味は反転している。本書では第一章でいじめを題材にしながら今日の生徒たちがどのような人間関係を営んいるのかについて探っていく。人間関係をマネージメントしていくためにコミュニケーションへ没頭させざるをえない若者たちのすがたがあり、そこから生まれる人間関係の重さがあり、それをやり過ごすために編み出されたテクニックとして、いじめという行為が捉え直される。第二章では古典ともいえる青春日記の一つ『二十歳の原点』を残した高野悦子の生きざまとネットアイドルと言われた南条あやの生きざまを比較することで人間関係をめぐる若者の生きずらさの歴史的な変遷を探っていく。第三章ではあるひきこもりの青年がウェブサイトに吐露した「自分の地獄」という言葉を手がかりにして、本書の前半で描いたような人間関係の特徴がどのような仕組みから成り立っているのかについて考察する。第四章では携帯電話というコミュニケーション・メディアを巧みに使いこなす若者たちのすがたを描く。最終章ではより現実らしい現実へとサバイバルしていくためにネット空間というフィクションをあえて経由せざるを得ない若者たちの心理的なメカニズムについて考察する。
(796文字)

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基礎教養部

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