哲学のメガネ

『哲学のメガネ』三好由紀彦(著)

書評
執筆責任者:ていりふびに
今回私が紹介する本は三好由紀彦著「哲学のメガネ〜哲学の眼で<世界>を見るための7つの授業〜」である。タイトルにもある通り、7つある各章ごとに日常的な光景を「哲学のメガネ」を通して捉え直すことがテーマとして書かれている。例えば、信号の色の見え方、人工衛星による天気予報、宗教、道徳など身近な題材を取り扱っている。この7つの章は独立した内容ではなく、新しい世界観、真理につながっていく。その世界観とは「生きているからこそすべてはある」である。これまでの人類の歴史を振り返ると「死後の世界」、「現世とは別の真実の世界」が存在することを前提として宗教、科学、道徳などを含む現世の基盤が作り上げられてきた。この基盤は人類にとって優れた原理であったが、限界を迎えているように見える。そこで、全ての経験の前提を「私が生きている」ことにするのである。つまり「現世の肯定」、「現世こそが真実の世界」というわけである。この一見新しい世界観そのものはかつての原始民族の価値観に近く、また多くの思想家が共通して語っている。私は時たま感じる自分の体が延長されているような感覚の正体に興味があって、この「生きる」を前提とする世界観に通ずるような本を探し読んでいたが、難解で今の自分には最後まで読み進めていくことができなかった。しかし、本書は比較的平易な言葉で書かれており、7つの章が段階を踏んでこの世界観の「入り口」を説明している。あくまで「入り口」ではあるが、この本を通してこの世界観に関する理解は深まった。「哲学のメガネ」をかけて、思想家達の世界を追体験したい方にも勿論お勧めできるが、私としては「生きていること」に興味がある方に強くお勧めしたい。
(712文字)

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