倫理学入門

『倫理学入門』品川哲彦(著)

書評
執筆責任者:Hiroto
世はまさに、“大多様性時代“である。多様な価値観があってよく、それら全ては尊重されるべきで、他者から理由なく貶されることがあってはならない。それでは、「価値観は多様にあってはならない」という価値観はどうか。これは『不寛容のジレンマ』と呼ばれる類の有名問題だが、この“大多様性時代“において頻繁に直面する問題の一つである。こういった問題を突き詰めて考えると、「何が善か」「何が正義か」といった問題まで掘り下げられるが、この類の疑問に対する答えを模索する学問がこの世の中には存在する。倫理学である。今回紹介する『倫理学入門』は題の通り、倫理学に関する入門的な書籍である。本書では『道徳』と『倫理』とを(あくまでも本書の中で)はっきりと分けることから議論がはじまる。簡単に言えば、『道徳』とは万人にとって適用されるべき“よい“ことで、『倫理』とは個人がそれぞれ自らの生き方として(道徳を踏まえて)採用する“よい“と思うことだ、と分けられる。私見だが、そもそも正義や善について語る際にこの二つを混同してしまうから、ややこしくなることが多いのではないかと思う。例として、最初に紹介した『不寛容のジレンマ』を考えよう。「多様な価値観が全て尊重されるべきだ」という主張は『道徳』的である。万人について保証されるべき権利を主張しているし、それを万人が採用して齟齬が生じないからだ。対して、「多様な価値観があってはならない」という主張はそもそも『道徳』的ではない。万人が採用すれば定義上それぞれが争ってしまう価値観だからだ。それでは、この価値観を個人が『倫理』として採用することはできるのか。これも先の『道徳』に反するという理由で棄却される。この例だけからも十分わかるように、身近な問題を適切に議論するための道具を本書は豊富に提供してくれる。本書を紹介することが社会的な善であると、私は信じている。 
(791文字)

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